
社会的に禁煙が叫ばれる中、タバコを止めたくても止められない人がいらっしゃいます。タバコには
約4000種類の化学物質、
約200種類有毒物質、そして
約20~70種類の発がん物質が含まれていることが分かっています。様々なデータから、喫煙は、肺癌・咽頭癌などの各種癌、心臓・血管・呼吸器疾患、そしてそれ以外の様々な病気の原因となると多くの方が分かっているのに、喫煙を止められないのはなぜでしょうか。
近年、喫煙という「行為」を、「ニコチン依存症」という「病気」として捉えるという考え方があります。このニコチン依存症には「
心理的依存」と「
身体的依存」があるといわれています。
「
心理的依存」はいわゆる習慣、癖といったものであり、生活習慣に深くながく入り込んでしまった喫煙行為が体と心にしみついてしまっているのです。また、「病気になる」「他の人の迷惑になる」という事実より、タバコによる「おいしさ」や吸わないときのイライラなどの辛さのほうが、喫煙者にとっては重要なので、喫煙という行為を肯定してしまうのです。
「
身体的依存」はニコチン中毒であり、いわゆるニコチン切れによる中毒症状;いらいらする、落ち着かない、タバコに対する強い欲求が湧き上がってくることをさします。このイライラ等の症状が出たときにタバコを吸うと、イライラが開放され、脳の中で快楽物質が放出されるのでタバコをおいしく感じ、止められなくなるのです。
禁煙治療は、この二つの「依存」を捉えて、治療を行っていきます。「身体的依存」であるニコチン切れに関しては、貼布製剤や内服薬を使います。貼布製剤;
ニコチンパッチは、タバコからではなく貼り薬で皮膚からニコチンを体に与えてあげ、ニコチン切れによる中毒症状を和らげます。
内服薬は、脳内のニコチン受容体に直接作用してニコチン切れによる中毒症状を和らげます。貼布製剤は皮膚が弱いとかぶれやすい、内服薬は嘔気がする・うつ病があると悪化する可能性がある、などそれぞれ欠点もあり、また生活習慣なども個人によって違うので、その人にあった薬を選んで使います。その薬理効果から併用はいたしません。
しかしこれらの薬剤だけではタバコを止めることはできません。薬をつかいつつ、その上で「心理的依存」を軽減する努力をしていただきます。まずは、喫煙を連想するタバコは勿論、マッチや灰皿は
処分していただきます。目の前にタバコがあるのに吸うなというのはつらいものです。食後や仕事の合間で、いままでタバコを吸っていたような場面では、タバコに変わるモノ;飴やガム、酢昆布・スルメイカやパイポなどで、口寂しさを和らげ
代用して頂きます。それでも吸いたい気持ちがあれば、背伸びや軽い運動といった、喫煙とは異なる行動で気持ちを紛らわせましょう(行動置換療法)。
また一番多い失敗のきっかけはお酒の席です。それまで頑張っていたのが、お酒の席で気が緩んで気がついたら火のついたタバコを持っていた、人から勧められ「一本ぐらいいいか」と吸ってしまう・・・・。ですので、自信がつくまでは、
お酒の席は止めましょう。
ご家族で喫煙をされる方がいるのなら、出来れば家の中で喫煙するのは止めてもらいましょう。目の前で吸っているのを我慢するのはやはり辛いもの。
ご家族の協力も必要なのです。
こうしてタバコが周りに無い環境を整えた方が成功の確率は大きくなるでしょう。また禁煙中に過大な精神的ストレスがかかると失敗する可能性が高くなりますので、仕事や生活環境などで、ストレスの少ない時期を選んで開始することも一つのポイントといえます。
禁煙治療は
以下の条件を満たせば保健適応になります。
① ニコチン依存症のスクリーニングテスト(TDS)でニコチン依存症と診断される事
(初診時に問診形式で受けていただきます。)
② 1日の喫煙本数×喫煙年数が200以上(ブリンクマン指数といわれます)
③ 患者が直ちに禁煙することを希望する事
④ 全部で12週間、5回来院する「禁煙治療プログラム」への参加に文章で同意する事
費用は薬剤や他の疾患をお持ちかで多少変わりますが、薬剤費も含め全部で
15000~18000円程度です(3割負担の場合)。タバコ一箱300円を毎日吸ったとすれば1ヶ月で9000円、12週間で27000円ですね。対費用効果も十分見込めるといえるでしょう。
禁煙治療で一番重要なことは、「禁煙したい!」という意思を持つこと。意思の力だけでは禁煙は出来ませんが、ご自分の
強い決意がなければ上手くいきません。家族に勧められたからとか、医者が言うから仕方なく、では失敗する可能性が高くなります。まずはご自分の意思をしっかり持って下さい。ですから、呼吸器の病気を持っていて喫煙している人には、禁煙を勧めますが、無理に禁煙治療は勧めません。ご自分から禁煙の意思を示すことを待っているからなのです。
禁煙をしてみると、体調や味覚の改善に気づいたり、自分を含めたタバコの嫌な匂いが鼻についてきたり、お財布のお金の減りが少なくなったりと色々な変化がわかります。大げさに言えば「人生が変わる」のです。禁煙をすることは、人生に何のデメリットもありません。ですから後はきっかけだけなのです。禁煙は、したいと思ったときが開始の日です。勇気をだして最初の一歩を始めてみましょう。